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2013.5.17

開学記念式典 学長謝辞 「芸術は「壊しては作る」を繰り返す」

 秋田公立美術大学開学記念式典が平成25年5月17日(金)15:00から 開催されました。

式典での樋田学長の謝辞を掲載いたします。
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平成25年5月17日
秋田公立美術大学 開学式
学長謝辞

芸術は「壊しては作る」を繰り返す

秋田公立美術大学の開設に向けてご尽力いただきました皆さま、また直接・間接的にご支援ご声援をいただきました皆さま、本当にありがとうございました。
また本日、お忙しいなかをご臨席いただきましたご来賓の皆さま、さらにご祝辞を賜りました方々、記念講演で「本学に期待すること」を語っていただきました千住博先生にも、心からお礼を申し上げます。皆さまのおかげで、私たちは今日の開学記念式典を迎えることができました。  開設準備の途中では、いくつもの大きな困難がありました。ですが、そのたびに私たちは皆さまに励まされ、勇気づけられ、今日(きょう)の日に辿り着くことができました。私はいまそれらを思い出し、感謝の念でいっぱいです。また、責任の重さをずっしりと感じております。

そうした感謝と責任の気持ちを込めて、秋田公立美術大学の「これまで」と「これから」について、ひとことお話しをさせていただきます。
まず「これまで」ですが、いま振り返りますと、本学がその開学によって目指したのは、ひとことで言えばUp to dateでした。大学で教える「美術」の内容を、現代社会で流通している「美術」の内容にまで今日化する、つまりUp to dateしようと考えたのです。  美術は時代とともに革新されていく「なまもの」です。これまでその革新は、個人の孤独な闘いによって担われてきました。芸術家に対して、しばしば孤高の人とか、旧態依然とした画壇や、世間の無理解と戦った人というイメージが浮かぶのはそのためです。
でも、なぜ芸術家は孤独のうちに戦うしかなかったのでしょうか。これには芸術を世俗と懸け離れた世界だと考える19世紀の思想が影響していましたが、それと同時に、美術大学の教育現場が、いきなり同時代の革新的な美術を教えるよりも、その前に基礎技術や、オーソドックスな美術をみっちりと教え込むべきだという方針を立ててきたからでもありました。「修業なくして、芸術の革新なし」といったところです。  これはこれでひとつの考え方でした。ですが、この方針が日本の美術を停滞させ、世界的な芸術祭では評価されにくいという、日本美術のガラパゴス化を招いてもきました。
秋田公立美術大学が建学の理念として掲げる、「新しい芸術領域への挑戦」や、「伝統を深堀して、そこに同時代性や普遍性を見出す試み」は、なにもドン・キホーテのような突拍子もない思いつきではありません。今日の世界的な芸術祭では当たり前になっている美術の現状を、教育現場にもフィードバックしようとしているだけなのです。
どうすれば、芸術家は孤独な闘いに勝ち抜くことができるのか。本学の理念は、その方法を学生のうちから伝授してしまおうということでもある、と言い換えてもいいでしょう。

つぎに、秋田公立美術大学の「これから」です。それをひとことで言うならば、美術を停滞させないということにつきます。先ほど美術は時代とともに革新されていく「なまもの」ですといいましたが、まさに美術は革新が止まれば、それは流行遅れになって、箪笥の肥やしになってしまった洋服のようなものです。
自分の作る美術品が流行遅れにならないようにするためには、芸術家は「壊しては作り、壊しては作り」を繰り返していくしかありません。これを言葉を換えて言うならば、芸術家にとって、作品とはつねに新製品であって、しかもその手本はどこに行っても売っていないし、どこからも輸入できないということです。芸術家は結局、「裸一貫」、「一代限り」の相撲取りのようなものなのです。
それではお相撲さんのように四十八手の技を持っていない芸術家は、何を拠り所に「壊しては作り、壊しては作り」を繰り返していくのでしょうか。それは同時代や現実社会との精神的な連帯です。一見、社会に異議申し立てをしているように見える美術作品があるとしても、それは「ほんとは皆さんと一杯やりたいなあ」と思っている芸術家の、切ないラブコールのようなものなのです。
ですから、本学が最重要課題に掲げている社会貢献も、最近の風潮に便乗して「取って付けた」ものではありません。芸術がほんらい持っている、ときに社会を刺激し、ときに社会を動かす機能を、現実の行政・産業・経済の場で発揮させようとする熱意にほかならないのです。
そんなわけで皆さん、これから本学は、美術を「壊しては作り、壊しては作り」の道を進んでいきます。壊すときには、一見、なんとまあ変わった感性を持っている人たちだと感じることがあるでしょう。美大の教員や学生とは、「極楽とんぼ」だと思えることもあるでしょう。でもそれは、ブーメランのように、いずれは現実に戻ってきて、社会を活性化する糧になるための試行錯誤なのだと理解してください。
可愛い子には旅をさせよです。その気持ちで、秋田公立美術大学の旅立ちを見守ってくださるようお願いします。近い将来、皆さまの目に、秋田や日本の地域社会が「おや、昨日までとは違って元気があるじゃないか」と写るような作品や仕事を、秋田公立美術大学の教職員や卒業生が一丸となって生みだすことをお約束して、私の謝辞とさせていただきます。

平成25年5月17日
秋田公立美術大学
理事長・学長
樋田豊次郎